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Keep My Word

19歳から旅を始めて、スコットランドで英語を学び、アルゼンチンでスペイン語とタンゴを学び、メキシコではサルサをかじり、オンライン英会話/スペイン語スクールを運営している男のブログです。海外滞在歴10年、50カ国ほどぶらぶらしました。

キューバの光と影2016

去年のちょうど今頃、初めてキューバに行ったが普通の観光旅行だったので、その印象は「ただただ貧しい国」という印象だった。

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しかし、今回はJETROが主催するビジネス視察旅行に参加したので、観光旅行では行けないところや知らないことも知ることが出来たのは大きな収穫だった。またツアーに参加した現地駐在員の方々や、個人的な知り合いである現地特派員のイギリス人ロイター記者とも久しぶりに再会して、面白い話を聞くことができた。

1. 歴史的な背景

1959年に革命政権を樹立して始まったキューバ社会主義は、革命前にアメリカの大資本と当時キューバのバチスタ独裁政権が結託して圧政を敷いたので、その反動として生まれたものである。一部の資本家だけが肥え太り、その他大勢の人々が飢え苦しんだ時代の教訓として「平等」を掲げたものであって、特にマルクスやレーニンとは関係がない。

むしろ、もっと崇高なロマンに基づいて敷かれた体制だ。

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1991年には当時、通常の4倍のレートでキューバの主産の輸出物である砂糖を買っていた旧ソ連が解体し、キューバは経済的な後ろ盾を失って大混乱に陥った。それでもキューバ人はこの危機的な状況で各家庭が農産物を育てるなどして、一致団結して乗り切っている。

この人口1100万人しかいない小さなカリブ海の国に人々がどこか憧憬の気持ちを抱くのも、そのような数々の苦難な時代を乗り切ったキューバ人のたくましさとロマン溢れたカストロチェ・ゲバラの革命、それにこのネット時代に完全に鎖国されたミステリアスな国であることが挙げられる。

2. 中南米一優秀と言われるキューバ人とその給料

教育水準は中南米一と言っていいほど高く、識字率は99%という高い数字を誇っている。隣人のメキシコでもキューバ人を絶賛する人は多いし、ほかのラテンの人々の比べて比較的時間に正確なのも好感を持てる。

そんな評判のいいキューバ人だが、国民の給料はすべて政府を通して支払いが行われ、平均月収は25ドルと低い水準だ。もちろん、これだといくら配給があっても足りないので、国外からの親戚による送金、あるいは観光客からの副収入を得て、なんとか生活をしているのが現状だ。

中国のような情報統制を敷いてはおらず、FACEBOOKもグーグルも使えるし、街中ではホテルや図書館の前でネットに接続している人たちを多く見かけた。(どんなに安くても1時間2ドルという接続料金を考えれば、一部の人しかネットに繋げないので情報統制などする必要がないのかもしれない。)

JETROの視察先であるBRASCUBAでは平均給与は800ドルが支払われているとのことだが、彼らが実際手にするのは50ドルだけである。750ドルが政府に中抜きされていることとなる。もちろん、それだと労働者は納得しないので、それとは別にキャッシュで支払いが行われる26ドルから42ドルのインセンティブがあるということだが、彼らに実際に支払われるべき賃金に比べて十分とは言えない。 (法律では会社の利益の10%を上限に社員に還元されることが許されているとのことだが、外資系企業が現金で支払ってしまえば政府が捕捉することは不可能なので、もっと多くのお金が支払われているかもしれない。)

hemingway2016 ヘミングウェイゆかりのバーがハバナの旧市街にはいくつかある。)

一番の高収入を得ているのはタクシーの運転手と言われ、1回の乗車につき少なくても10ドルから20ドルは取るので、1日に100ドルは稼げるだろう。試しにタクシーの運転手の何人かに月いくら稼いでいるのか聞いてみたが、600ドルから800ドルと言っていた。意外に少ないと思ったが、タクシーの運転手いわく「政府に1日50ドルくらいの多額の税金と取られるから」と言っていた。(以前は無認可のタクシーが多かったらしいが、大々的に政府が取り締まりを始めており、無認可で営業するのは難しくなったとのことだ)

約3年前に税金徴収のシステムが代わり、タクシーの運転手は使ったガソリンに比例して税金を払うことになり、それがだいたい1日50ドルになるとのことだ。これは使わなくても支払う必要があるので、多くのタクシー運転手は兄弟親戚と1台の車をシェアして、2日勤務2日休日というようなシフト制で働いている。

キューバ中南米随一の医療を誇る国でもあるが、その高い救育を受けた医師がタクシーの運転手などに転職してしまい、社会的な問題となっている。「平等」という崇高な理想を掲げたはいいが、高度な職業訓練を要し、患者の生死に向き合う医師よりもタクシーの運転手のほうが数十倍高い給料を稼げれば、誰だって転職したくなるだろう。

今までは国民すべての給与は政府を通じて支払われていたが、彼らのようなタクシー運転手、Casa particular(民泊)、Restaurant privado(個人経営レストラン)などが登場し、給与以外の収入を得る人たちが増えた。

ただし、これは首都ハバナに住んでいる人たちが受けている恩恵であり、地方の人々にはほかに稼ぐ手段が少ない。だから、近年では地方出身の女性がハバナで売春婦として働くケースが増えて、これも深刻な問題となっている。

3. これからの展望

閉ざされた国と言えどもそこはラテンの国なので、多くの人がイメージするような堅苦しい社会主義の国という感じはしない。それに2008年よりカストロの後を継いだ実弟ラウルが緩やかにではあるが経済の開放政策を進めている。しかし、そのラウルも2018年には引退することを明言している。だから「これからのキューバ」は次世代に託されることになるが、急激な民主化は貧富の格差を広げることになるので、キューバの理想である「平等」とは程遠いものとなる恐れもある。

マリエル開発特区などを設けて積極的に外資を呼び込もうとしているが、人口が少ない国内市場に魅力は少ないので、教育水準の高いキューバ人を使っての製造業にこそ未来はあるのかもしれない。あくまで中南米のなかでは非常に教育水準が高いというだけだが、月50ドルから100ドル程度の給与で雇えるならば中南米の製造工場になるポテンシャルはあるだろう。

また、あるいは1100万人程度の人口であれば観光業だけで経済は成り立つかもしれない。

一歩間違えれば急激なインフレと新たな経済危機が隣り合わせだが、とにかく「投資=金をくれ」という政府関係者の声はとても切実なものだった。(本来ならば投資というのは一方的なものではないはずだが、社会主義の国の人たちに投資の概念を説くのは難しいとは思う。)

次回は今回の旅行で最も魅力に感じたキューバのアートと音楽について書きたいと思っている。