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旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

愛と幻想のアルゼンチン

2011年4月に半ば衝動的にアルゼンチンへと移住してから、もう随分と長い時間が流れた。 それから、2013年4月まで住み続けたが、それからはメキシコ、日本へと居を移して今に至る。

少なくても1年に1回定期的に訪れている国には、メキシコ、フィリピン、それにアルゼンチンとあるが、このなかでアルゼンチンだけが見事にまるで発展の兆しが見えない。

メキシコやフィリピンはニュースとして聞く話ではろくな話がないが、実際訪れているとしっかりと着実に発展していることが感じされるし、人々の顔もどこかしら明るい。それに現地の人たちの購買力、購買意欲は凄まじいものがある。

翻って、アルゼンチンだ。 行くたびに人々の顔は暗くなっているように思えるし、インフレは凄まじい。

去年の大統領選で、マクリが新しい大統領になったが、経済政策的にはまだ迷走が続いており、今までガス、電気、水道などに補助金が出ていたのを完全にカットしたので、一気に料金が200%から2000%増しとなった。 (一般家庭、会社のサイズによって料率がかわり、一般家庭であるならばだいたい500%から1000%増しになったところが多い)

なかなかアグレッシブな政策だが、当然払えない人が続出したので、また元に戻すことも検討しているらしい。

補助金をカットすること自体は悪いことではない。1バレル45ドルだった石油をアルゼンチン政府はずっと1バレル77ドルで買っており、実質石油会社に1バレルにつき32ドルも多く払っていたことが判明している。

そして、ブエノスアイレス市以外に住んでいる多くの住民は、それほど多くの補助金を支払われておらず、一部では公共料金がブエノスアイレス市の3倍から5倍もしている地方もあった。それを是正するのは、正しい政策ではある。

補助金は貧しい人たちのための「補助」となるように手配されるべきだが、結局のところ一番得をしていたのは金持ちであって、貧しい人たちではなかったという事実も判明しており、だからこそ是正すべきであるというのは正しい主張ではある。

だからと言って、「はい、明日からガス代、電気代、水道代が5倍から10倍になるから、払ってね!」と言われても困るので、憲法違反であると現職の大統領が訴えられる事態にまで発展している。

アルゼンチン人の友人が「アルゼンチンには政党らしき政党が存在していないから、大統領選のたびに新しい政党が生まれて、政権運営のノウハウが引き継がれることがない。それが一番の問題だ!」と言っていたが、その通りだと思う。前政権のバラマキ政策のツケが今回ってきているが、それをうまく処理するスキルもノウハウも現政権にはない。

自民党一党独裁が30年近く続いた日本で民主党が政権を取った時の混乱を思い出すと分かりやすいかもしれない。

その混乱がずっとこの国では続いており、一向に経済的に上昇の気配が見えない。食料自給率200%を超える資源国であるので、天気さえよければ穀物の輸出(主に大豆、トウモロコシそれに小麦)でなんとかなるが、天気が悪ければコケるという博打打ちのような国である。

rosado (大統領府の前ではリンゴ農家の人たちのデモがあり、1キロ2ペソでしか買い取ってもらえないのに、スーパーなどでは1キロ30ペソで販売していることに抗議していた・・・・)

国内市場が韓国と同程度の4000万人程度なので、市場としては小さすぎるので国外市場に打って出るしかないのに、それもこの10年ずっと叶っていない。片やメキシコは北米自由貿易協定のおかげで関税ゼロで車を輸出できるので、日産やマツダ、それについにトヨタまで進出しようとしている。

前回ブエノスアイレスを訪れたのは2016年1月と半年ほど前だったが、今年8月に訪れてみても、価格の値段は確実に上がっており、インフレの重みを肌で感じる。

追い詰めれらた人間というものは、たいていロクな判断力を持たなくなる。 アルゼンチンの人たちがこうもロクな判断をしないのは、もしかしたらずっと追い詰められているからかもしれない。

正しかろうが、一気に公共料金を5倍も10倍値上げする人の気持ちが分からない大統領もどうかと思うし、感情的になって憲法違反といってそれを訴えるのも正直どうかと思う。

それでもこの国は、ジェットコースターのような政権運営をずっと続けて、本人たちはいたく真剣なんだけど、周りから見ると安っぽいメロドラマのような政治をずっと続けていくのだろう。

だが、現代のサッカーの神様はアルゼンチン人メッシであり、またローマ法王もアルゼンチン人である。圧倒的に優秀な個人をなぜか輩出する国ではあるので、「個人の時代」と呼ばれて久しいこの時代に救世主のような政治家が現れるかもしれない。

そんな儚い希望を抱きながらも、また足繁くアルゼンチンへと通うことになるのだろう。 願わくば救世主と思った相手がヒットラーのような独裁者ではないことだけを祈るばかりだ。