Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

Time, Travel, Morocco(1)

人はどうして旅に出るのだろう。 旅をするたびにそう思う。

モロッコは僕の思い描いていた通り、異国の地だった。 東南アジアやヨーロッパの風景に見慣れた自分にとっては、まさに未知の土地だ。 その匂いや空気にとても興奮させられた。

いつものようにろくな予定を立てていなかったが、今回の日程は思いのほか短いので行けるところは限られた。 日本からカサブランカまで20時間以上かかったが、時間を無駄にすることなくその日のうちにマラケシュへと移動した。 映画「カサブランカ」のファンであったが、映画のようなシチェエーションは望むべくもないので、モロッコの心臓とも言えるマラケシュへと急いだのは結果的には正解だった。

マラケシュの広場は、まさにモロッコそのものと言えるような熱気に満ちており、そこにいるだけで否が応でも自分が異邦人であることを思い知らされた。

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マラケシュで犯した最大の過ちはガイドブックに頼って、最初の宿を探したことだ。 ガイドブックの地図を片手に、その宿を探したが迷路のように入り組んだマラケシュで目的地を見つけることは至難の技だ。 一時間あまり重い荷物を背負い歩き回ったが、ロンリープラネットいちばん推しの宿は見つからない。 地図を指しながら4、5人のモロッコ人に道を訊いたが、どの人も違うことを言うので訊くことが馬鹿馬鹿しくなってしまった。

この旅ではもう二度とガイドブックには頼らないと心に決め、行き当たりばったり歩き、適当な宿を見つけた。 目的がなければ、そもそも迷うこともないのだ。

翌日は、スークと呼ばれるモロッコ風のアメ横をひたすら歩き回り、写真を撮った。

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一人旅なので、誰にも気兼ねすることなく撮影にいそしむことができる。 今回の旅の目的のひとつは、写真を第一義に置くことだった。 今までの旅では、写真を撮ることは二の次だった。 旅自体が楽しすぎて、写真を撮ることを忘れることもしばしばあった。 プロになる前とはいえ、インドに三ヶ月も居たのにフィルム5本しか写真を撮らなかったぐらいだ。 モロッコではそんなことがないように、いかなるときにでもカメラを携帯するようにし、撮影の機会を逃さないように気をつけた。

マラケシュには見所がたくさんあり、ここにずっと居てもいいかもと思えるくらい、気に入った土地だった。しかし、人間一人きりでいると飽きるのも早い。何せやることと言ったら、歩き回って写真を撮ることだけだ。まさにカメラが友達という状況では全く違う被写体を撮りたくなってしまう。それに砂漠にはどうしても行きたかったので、マラケシュにわずか二泊しただけで砂漠のゲートウェイワルザザートに向かった。

ワルザザートマラケシュに比べるとおおざっぱな街だったが、砂漠に行くためにはどうしてもここに一泊は滞在する必要があった。ホテルを見つけ荷物を下ろすと、早速砂漠への旅をオーガナイズするために、旅行代理店を回った。 ドライバー付きの四駆を借りると、大きな出費となったが誰かとシェアすると撮影の邪魔になるので、一人きりで行くことにした。

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モロッコにはモロッコ時間が流れており、電車は平気で一時間は遅れるし、バスはもっと遅れる。そして、人々は約束の時間なんて守りはしない。 僕の運転手ハッサンは約束の時間の三十分遅れで来て、さらに朝飯がまだなので近所のカフェで食べてから行こうと言う。 郷に入れば、郷に従うしかないので、カフェに入ってミントティーを飲むことにした。

モロッコ滞在中、僕はすっかりミントティーの虜となり、ミントだらけの体となった。一日、5杯は軽く飲んでいた気がする。モロッコのミントティーは死ぬほど甘かったが、疲れた体にはちょうど良かったのかもしれない。 移動につぐ移動の旅だったので、十分なカロリー摂取をしないと体が持たない。

飛行機に合計34時間、バスに16時間、電車に10時間、タクシーに四時間、そしてハッサン操る四駆に丸一日半、それと駱駝に五時間ほど乗っていた。これが九日間の旅で要した移動の全容である。旅の半分ぐらいは移動に費やしている。なんともせわしない旅だった。

モロッコに行くまで、モロッコでは英語が通じないとは聞いていたが、「まあ、なんとかなるさ」とタカをくくっていた。しかし、これが甘かった。本当にまるで通じない。そういうことなので、ハッサン操る四駆は、会話が一切ない瞑想的な空間となった。相手に言葉が通じないとなると、案外気は楽ではある。

適当な場所が見つかると「ストップ」と言って車を止めてもらう以外、ほとんど口を利かなかったが、モロッコの大地を眺めているだけで満ち足りた気分だったので、いい時間を過ごせた気がする。

いくつかの観光スポットに寄り、午後三時には大砂丘そびえるメルズーカに着いた。 そこから駱駝に乗って、ベルベル人の村まで行き、そこで一泊する予定だった。

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つづく