Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

残りの旅路

当初はレンソンスに二日ほど滞在して、サルバドールに戻る予定だったが、滞在を一日延長した。一日どころか、もうニ、三日滞在してもいいと思ったが、このあとの日程がきつくなるので、それは諦めた。

レンソンスは豪華な朝食で有名なところで期待していたのだが、ホテルで出された朝食はひどく質素でがっかりした。このホテルは、イギリス人がオーナーで自分以外のほとんどの宿泊客はイギリス人だ。ひとつの国の人が固まると、ほかの国から来た人間はなんだか疎外感を感じてしまう。日本人宿に泊まる外国人も、同種の感情を感じるだろう。そんなこともあり、宿を変えようと思った。

ホテルでは朝食を取らず、街のレストランで朝食を取ることにした。そのついでにほかの宿を物色してみよう。幸いなことにレンソンスには素敵なプザーダ(日本で言うところの民宿に近い)が多い。

Brazil, レンソンス

坂道を下り、街の中心へと向かう。
たまたま見つけたレストランで朝食を注文する。出された朝食は一人で食べきれないほど量が多く、とてもおいしかった。

おなかが一杯になったところで、レストランを出て宿を求めて、あたりを歩き回った。ひとつ良さそうなプサーダを見つけたので、なかに入って空きがあるかどうか聞いてみた。するとおばさんがポルトガル語で色々とまくし立てた。おばさんの発するポルトガル語の単語はどれひとつ分からなかったが、言っていることはなんとなく理解できた。

「あんた一人?あいにくうちはニ、三人用の部屋しかなくてね。悪いね。だけど、そこの角を曲がってニブロック行った先に、違うプサーダがあるからそこなら一人でも泊まれるから行ってみな」というようなことを、身振り手振りを交えて言っているような気がした。

言葉というものは不思議なものだ。
おばさんのように、こちらが理解できると確信を持って話されると、その期待に応えるべく脳みそから自分の感覚的なものすべてを使って理解しようと努力する。そうすると、不思議なことに単語自体はよく分からないが、それに込められた感情的なものから、少しは意味を理解できるようなる。

おばさんの言われたと通りに宿を出て、角を曲がってみた。たしかにその通りにはいくつものプサーダがあった。ただ同じ通りにレストランなども軒を連ねているので騒音が気になる。もう少し静かな場所にある宿を探した。
しばらく歩くと、キャンプ地とプサーダが一緒になっている宿を見つけて、そこに宿泊することにした。料金もサルバドールのホステルと同じくらいだった。

Brazil, レンソンス

昨日滞在していたホテルから荷物を移し、たまった洗濯物を洗って干した。キャンプ地も兼ねているだけあって、敷地が広大だ。ここなら夜は静かだし、街の中心にも近いので絶好のロケーションだと思った。

宿を変えた理由のひとつは、昨日泊まったところが街の中心から離れており、昨夜カイと別れたあと、とぼとぼと一人で歩いて帰ったのだが、いつのまにか野犬が闇に紛れて近寄ってきて、すっかり周りを囲まれてしまったのだ。とくに威嚇しているわけではなさそうだったので、その場でじっとしてやり過ごしたのだが、そんな思いをするのはもうごめんだった。

日はすっかり昇り、強烈な光が石畳の道を照り付けている。レンソンスには高い建物がひとつもないので、光を遮るものもなく、その強烈な太陽光をまともに受けてしまう。けれども、サルバドールで感じた光よりは、心なしか優しい気がする。この牧歌的な雰囲気が光さえも弱めてしまうのかもしれない。

ランチを取ったあと、とりあえず宿に戻って休憩しようと思い、レストランから出る。すると、後ろから「エクスキューズミー」という声が聞こえ、呼び止められた。振り返ると、黒人女性がひとりでカイピリーニャを飲んでおり、「どこから来たの?」と英語で話しかけられた。

彼女はイギリス人でロンドンに住んでいるという。レンソンスには昨日着いたばかりだけど、今日の夜にはバスに乗ってサルバドールに向かうとのことだった。彼女の休暇は二週間しかないので、かなり駆け足で旅をしているようだった。レンソンスに来る前は、イグアスの滝を見に行ったとのことだった。その感想を聞くと「そうね、行く価値はあるわ。それにせっかくここまで来たのだから、行くべきだと思う」とのことだった。

Brazil, レンソンス

正直、ブラジルに来るまではイグアスの滝など行くつもりはなかった。ただの観光地だろうとたかをくくっていたのだ。しかし、イグアスの滝に行ってきた旅行者が口を揃えたかのように「行って良かった!」というので考えが変わった。当初はアマゾンに行こうと思っていたが、そうなると旅程的にかなりきついものになってしまう。その代わりに、イグアスの滝に行くというのは悪いアイディアではないなと思った。

彼女と別れたあと、インターネットカフェに行って、イグアスの滝までの飛行機を調べてみた。距離的にはかなり遠いが値段は思ったほど高くはなかった。明後日、サルバドールに戻る予定だったが、今度はサルバドールに到着するのは夜になる。となるとサルバドールには二日滞在する必要がある。それからイグアスの滝を目指そうと思い、4日後のサルバドール発、リオ経由、イグアス着のチケットを予約した。

これで残りの旅の予定は確定したので、なんだかほっとした。
その足で旅行代理店に行き、ついでに明日の日帰りツアーに申し込んだ。先ほど会った黒人女性が、近くにある国立自然公園を回るツアーも良かったと言っていたので、それに参加することにしたのだった。旅行代理店の女性は英語がほとんどできないので、詳細はよく分からなかったが、明日八時半にこの店の前に来ればいいことだけは理解した。

Brazil

レンソンスは本当に小さな街なので、昨日今日でほとんど歩き尽くしてしまった。それでも、この街を歩くのは楽しい。何度も通った石畳の道を、行ったり来たりし、川辺に出て橋を工事している人たちの写真を撮ったりした。カメラを持つと、一人旅ではそれが目的となり、また旅の供になる。僕が行った場所は、このカメラを通してでしかほかの人は知りえない。それが自分にとって一人旅の醍醐味でもあり、旅に出る理由でもある。

日が暮れると、シャワーを浴びに一旦宿に帰り、夜ご飯を食べにまた街へと繰り出した。色々と見て回るうちにどのレストランに入るか決めかねて、結局昨夜と同じレストランに入った。
(たぶん、ウエイトレスが可愛かったことがいくぶんか影響していると思う)

パスタを食べ終え、宿に帰ると離れにあるレストランから明かりが漏れていたので寄ってみた。バーはまだオープンしていたので、ビールを注文しカウンターに座った。目の前では、フォトジェニックな子供が黒人の女の子と遊んでいたので、カメラをビデオに切り替え撮影した。

明日はのんびり観光するつもりだ。
日帰りツアーなんて柄ではないが、たまにはそういうことをするのもいいのではと思った。きっと気の合う人に知り合うこともあるだろう。