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旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

ジム・ジャームッシュには三回会った

ジム・ジャームッシュには三回会った。三回とも同じ格好だった。革のハーフコートに赤いスウェット、手にはビニールの買い物袋」

実家に帰ったら、昔に買った雑誌が山積みになっていた。捨てるなり持って帰るなりしろとのことだった。家に帰って読むと、さすが10年間も捨てずに取って置いた雑誌だけあって面白い記事がたくさんあり思わずまた読み返した。特にウッディ・アレンとジム・シャームッシュ、それにマーティン・スコセッシのインタビューが同時に掲載されているCUTは僕の宝物だ。

最近、「ゴーストドック」というジム・ジャームッシュの映画を見た。ストレンジャー・ザン・パラダイスで一世を風靡した頃の面影はないが、映像と映像を丁寧に積み重ねていく手法は健在で、とても楽しめた。冒頭であげた文章は、インタビュー記事の最初の文章だ。この文章だけで、ジム・ジャームッシュという人柄が伝わってくる。

世界中にあるフィルムスクールの生徒の憧れであるはずの男が、そんな気取らない男であるというのは微笑ましい事実だ。

10 年前くらいに「ナイト・オン・ザ・プラネット」が公開されたときに、僕は銀座まで見に行った。その日は同時に「デリカテッセン」という映画も見ていて、かなり内容の濃い一日だったことを覚えている。当時は彼の大ファンだったので、しっかりとパンフレットまで購入して隅々まで読んだ。

そこにアラーキーさんがジム・ジャームッシュに寄せる文章を書いていて、「こんなに流行っている映画を撮るやつは、デザイナーにもらったブランド物の服に身を包んだ、いけすかない男かと思っていたが、汚いジーパンを履いた普通の男でとても好感を持った」というような文章を書いていた。それにジム・ジャームッシュは21歳のときに婚約して、その次の日にその恋人を失くした過去があるとのことだった。そういう面でアラーキーさんと意気投合したらしい。初対面の人にそういったことまで聞き出せるアラーキーさんには感服するが、ジム・ジャームッシュにそんな過去があるとは当時は知らなくてなんだかショックだった記憶がある。

昔は好きになった作家や映画監督を徹底的に調べ上げる癖があり、その中でも21歳にときに恋人に先立たれたジム・ジャームッシュというのが強烈な印象として残っている。

今でも彼の映画を見ると、ついそのことを思い出してしまう。そのあと立ち直って、世界的な名声を手にするまでの彼の人生の過程を想像することのほうが、なんだか受身にただ映画を見ることより面白いときもある。