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Keep My Word

19歳から旅を始めて、スコットランドで英語を学び、アルゼンチンでスペイン語とタンゴを学び、メキシコではサルサをかじり、オンライン英会話/スペイン語スクールを運営している男のブログです。海外滞在歴10年、50カ国ほどぶらぶらしました。

アルゼンチンの落日:政治と経済と外国人であるということ

アルゼンチンに二日ほど前、またストライキがあった。

最近、ストライキばかりなのであまりどうこう思わなかったが、スペイン語のレッスンでこのストに関しての新聞記事を使ってレッスンをしたので興味が湧いた。

いわく、アルゼンチンには伝統的な労働組合であるCGTと、15年ほど前に出来た比較的新しいCTAという労働組合があり、その二つがこのストライキを機に共闘することになったとのことだ。

ここでひとつ説明しておかないといけないのは、アルゼンチンでは労働組合が絶大な力を持っており、政府よりも力が大きいのが特徴だ。そのなかでもこの二つの労働組合は最大規模であり、それだけ影響力を持っている。CTAという労働組合は数年前までは現在のクリスティーナ政権とは仲良くやっていたのだが、あまりに要求がエスカレートしてきたので、クリスティーナ大統領の堪忍袋の緒が切れ、仲違いしてしまった。

それからというものずっと政府のやることなすことにケチを突きつけて、現在に至っている。

またアルゼンチン最大のメディアグループであるクラリンも同じように数年前からクリスティーナ政権と仲違いしたので、現政権はとても不安定な状態に置かれていることは確かだ。そして、この「政権を不安定にさせる」という目的のもとに今回のスト、また現在頻繁に起こっているストがある。

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(つい先日も8Nと呼ばれる50万規模のデモがあった。写真はこちらからの転載です)

クラリングループというのは、表立っては「Clarín」という新聞だけを保有しているように見えるのだが、実際はラジオ、テレビなどあらゆるメディアを牛耳っており、その数は地方ラジオなどを合わせると400を超えると言われている。日本だと、読売グループとフジサンケイグループ、それNHKが合わさったくらいの影響力があるメディアグループだ。

新聞、ラジオ、テレビを付けるとすべてのメディアが「現政権は腐りきっている」などという過激な意見が飛び交うのがアルゼンチンメディアの実態だ。それは単純にクラリンの利益に反している現政権をどうにかして倒したいという欲望からなる所作だ。

傍目から見ると、現政権に不満を抱いた市民がストやデモを繰り返しているように見えるが、蓋を開けてみるとそうではない。あくまで労働組合の利害、それにクラリンという巨大メディア・コングロマリットに先導された民衆が、行なっているだけである。

片や政府の政策も最近のところ失策が続いているのも確かだ。昨年の経済成長率は9%程度だったのが、今年は2%にまで落ち込んだ。その原因は多岐に渡るので一概に何が原因とは言えないが、要因のひとつには政府の極端な保護政策がある。

不動産の売買など多くの取引でドルが使用されていたのを、ペソに切り替えるために一般人の「ドル購入」を一切ストップしたこともこのような混乱に一役買ったのも確かだ。そのためにドルの闇両替のレートが公定のレートよりも30%ほど高くなり、逆にペソの価値を極端に下げることになってしまった。(ただ統計ではアルゼンチン国民の11%程度しかドルを持っていないということもあるので、一般レベルの人の生活にどれほどの影響があるのかは未知数だ)

ただ長い目でみれば、ずっとドルに依存した経済取引はリスクが高く、間接的にアメリカ経済に依存することになるので、方向性としては間違ってはいない政策だと言える。だが、このようなことをいちいち噛み砕いて説明はしないので、混乱だけを引き起こしているのが現政権の最大の罪と言える。

市民にとって最大の懸念は高いインフレ率であり、年間25%を超えると言われている。この不満のはけ口に、労働組合のボスたちやメディアを牛耳っている黒幕が目をつけ、それを利用して組織だったストを頻繁に起こしている。

このようにアルゼンチンの経済と政治を俯瞰してみていると、極端な理想主義的な政策を掲げる政府と、自己の利益しか興味がない労働組合、それにクラリンとの争いであることが見えてくる。

そして、その最大の犠牲者であり、加害者足りうるのが一般市民だ。特に投票は国民の義務なので、アルゼンチンの投票率は90%を超える。彼ら一人一人が、自己の利益ばかりではなく、国の未来を考えればこのような状態は抜け出せるかもしれない・・・・理想論だけど。

自分自身は外国人であり、「この国に住まわせてもらっている」くらいの立場なので、文句を言える立場ではないが、クリスティーナ大統領にはもう少しトーンダウンして、ゆっくりと改革をやってもらい、労働組合の人たちは対政府ではなく、対企業で交渉するという本来の目的に立ち戻って欲しい。(ちなみに労働組合はそもそもエビータの旦那だったペロン元大統領が作ったのだが、今となっては組織がでかくなりすぎており、労働組合というよりはひとつの巨大企業になっている)

アルゼンチンから学べる我々の教訓は、新聞やテレビなどのメディアは一切信用ならず、デモやストライキは表面的には国民全体の意見を反映しているように見えても、実態は一団体の利益を代表しているだけであるという可能性をきちんと認識しておくことだ。

目先の出来事に囚われては本質的な出来事はいつまでも見えてこない。今後、世界規模で様々な危機が訪れることが予想されるが、そのことだけは肝に命じておこうと思う。