Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

アメリカ

毎年夏になると海に行っていた。
子供の頃、祖父母が湯河原のちかくに住んでいたので、夏になると海水浴に丸一ヶ月間通った。

その海岸はスイカの食べ残しや、ありとあらゆるゴミが散乱する、およそ泳いで遊ぶには適さないところだった。そして波が高く、何度も溺れかけた。ひと夏もいると、必ず台風が一度や二度はやって来て、浅瀬に遊ぶ子供をさらっていく、そんな危険な海でもあった。

どこの日本の海もそうであるように、沖にはゴムボードが浮かんでいた。そして、それ以上は泳いでいけないように、浮きで囲われている。
小さい頃、その先に何があるのか、ずっと気になっていた。

あれは五歳くらいの頃だったと思う。
一度そのゴムボードまで連れて行ってもらったことがある。行ってみて驚いたのは、まだその先にも海があり、水平線が見えることだった。
漠然とそのゴムボードがその海の終わりを示すものだと思っていた。それ以上先があるという認識は五歳の僕にはなかった。

このまま真っ直ぐ泳いでいくと、どこに行くのか聞いてみた。
連れてきてくれた大人はちょっと考えて「アメリカ」と答えた。
そのとき初めて外国を意識したように思う。この途方もなく遠いかなたには、「アメリカ」がある。単純にそこまで行ってみたいと思った。波にさらわれた子供は「アメリカ」に行くのだろうか、と考えたりもした。それに「アメリカ」の先に何があるのか見たくなった。

たぶん、そうして旅をするようになった。
この先に何があるか見てみたい。
それだけのために。

思えば、あのときゴムボートまで連れてきてくれた人が「アメリカ」と答えずに、「江ノ島」と普通に答えていたら・・・・・・