Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

カッパドキアにて DAY 2

窓を開けると、そこはあたり一面雪に覆われた白銀の世界だった。

Snow

今日はクリスマスイブということもあり、久しぶりに経験するホワイトクリスマスだ。今日一日、家に閉じこもり窓から真っ白の世界を眺めやり、母親が用意する七面鳥を頬張り、家族みんなクリスマスツリーの下で歌でも歌いながら過ごしたら、素敵な一日になっただろう。

しかし、なんの因果かこの雪が吹き荒れている悪天候のなか、たっぷり丸一日カッパドキア名物の奇岩たちを歩いて回らなくてはいけない。あの川端康成も「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」と書いているが、それは汽車から見た世界だったからこそ、そんな悠長なことを言っていられたわけだ。もし彼が歩いてトンネルを抜けていたら、「寒いぞ、こんちくしょう」という感想しか思い浮かばなかったに違いない。

前日、フランソワと「カッパドキアはもっと寒いと思っていたよ。冬のカッパドキアの写真はどれも雪が積もっていたからさ、てっきり雪が降るものだと思ったけど、降らなくてよかったね」と笑い合っていたのが、嘘のようだ。それに、なんとなくトルコは暖かい国という先入観から、防寒の準備をしてこなかった。唯一の頼みはユニクロヒートテックだが、さすがのユニクロ様もこの寒さは手に余るだろう。しかも気が動転していたのか、長袖のヒートテックにセーターを着て、その上にジャンパーといういたって軽装のまま日帰りツアーに参加してしまった。

カッパドキア周辺にある様々な奇岩を回るのだが、願わくば車の中から見ていたかった。しかし、バスに乗ってしばらくするとツアーガイドのジェシカは「オープンエア・ミュージアムに着きました。車を降りてこれから一時間半かけ、ここを見て回ります」と告げた。「嘘だろ」と思った。外は文字通り、吹雪である。吹雪の中、岩なんて見てなにが楽しいだろう。世界遺産の岩がどうしたというのだ。そんなものより昨日のハマムに戻って暖かい大理石の上でずっと寝ていたい、というのが本音だった。しかし、そんなことはおくびにも出さずに、岩から岩へと「ふむふむ」とあたかも興味深い岩たちに感心するのを装い見て回った。寒さにたいしてわめき散らしたところでどうにもならず、郷に入れば郷に従うまでだ。それがツアーの根幹のルールでもある。

それにしても、みんな写真をよく撮る。そんなに岩の写真を撮って、何が楽しいのだろう?岩だから表情も変わらないし、吹雪だから光の加減もなにもあったものではない。動かないものには興味がないのは自分だけなのかもしれない。篠山紀信は「富士山も誉める」というのを思い出し、ユニークな形をした岩たちに微笑みを送ってみるが、何の感情も起きはしない。それに手袋も持って来ていなかったので、ポケットから手を出してカメラを取り出す作業だけでもかなり骨が折れる作業だった。そのうち手がかじかんで、感覚すらなくなってしまった。やはりヒートテックだけでは、どうにもならない。精神は肉体の従属物であって、けっしてその逆ではないのだ。

[caption id="attachment_559" align="aligncenter" width="500" caption="(明らかに写真を撮る状態ではありません。隣に写っている韓国人女性たち、ほんと寒そうです)"]yuki, 寒い[/caption]

オープンエアー・ミュージアムという名の岩石群がどうやらツアーのピークだったらしい。あとはカッパドキア特産のセラミックの皿、トルコ石の店などに案内された。ツアー参加者の半分は韓国人で、旅行代理店の人によると、この時期のトルコは彼らで溢れ返っているとのことだ。一昔前は日本人ばかりだったのが、それが韓国人に取って代わったとのことだった。土産物に興味を示しているのは彼らだけだったが、やはりウォン安が響いてたのか何も買わずに店を出た。

[caption id="attachment_560" align="aligncenter" width="500" caption="(最後にみんなで記念撮影をしました。無理して笑っていますね、みなさん)"]記念写真 寒い[/caption]

最後に吹雪の中、最も有名な奇岩郡だというところに立寄り、各自のホテルへとワゴンバスで送って行ってもらった。車中、フランソワが「今日はクリスマスイブだから、みんなで一杯飲みに行こう。FATBOYといういいバーがあるからそこに八時に集まろう」と提案した。みんなの反応はかなり鈍かったが、僕は個人的に仲良くなった韓国人の女の子二人組と日本人の女の子を誘っておいた。あと一人で参加しているポーランド人が一人乗り気だったが、ほかの人たちは来そうになかった。あとでフランソワが「みんな乗る気じゃなかったけど、おれって人気ないのかな?」と心配していたが、人気も何も今日初対面の人たちばかりなのだから、あの程度の反応が当たり前というものだ。

ほかのみんながホテルまで送ってもらうなか、僕たち二人はハマムの前で降ろしてもらい、またしてもハマムへと繰り出した。待ち焦がれていた瞬間がようやくやってくるのだ!このためだけに今日一日凌いでいたと言っても過言ではない。ハマムに入ったのは4時過ぎだったが、出たのは7時半を過ぎていた。三時間半ものあいだ僕たちは至福のときを過ごしたのだった。今回はアカスリマッサージとソープマッサージに加え、オイルマッサージも施してもらった。少々、手荒なマッサージだったが、今日一日の疲れを取るにはそれくらいの強さがちょうどよかった。

ハマムから出るとフランソワがインターネットをチェックしたいというので、それに付き合ってネットカフェへと赴いた。それから食事を取るためにレストランに入ったが、その時点で八時を過ぎていた。僕は「みんなもう来ているかもしれないけど、大丈夫かな?」と言ったがフランソワは「彼らは待てるさ」とスペイン人のような時間感覚で答えた。この吹雪の中、バーまで行って確かめに行くのは気が滅入る作業だったので、結局そのまま九時頃までレストランに居ることになった。さすがにその頃になるとフランソワも気になり始めて、僕らはほとんど駆け足でFATBOYに向かったが、バーには誰一人いなかった。だが、バーテンダーから話を聞くと僕らが着く10分前まで日本人と韓国人らしき集団、それに欧米人ぽい男が一人いたとのことだ。どうやら入れ違いに彼らは待ちきれずバーを出て行ってしまったらしい。悪いことをしたと思った僕は来た道を戻って、あたりを見渡してみたが、誰も見つからず仕方がないのでバーに戻り、またビリヤードをすることにした。

ビリヤードをしていると、トルコ人と金髪の男が入って来て、一緒にプレイしようと言ってきた。僕たちは二人一組になってエイトボールをすることにした。ハマンというトルコ人は日本語を勉強しているということもあり、日本語が結構堪能だった。いわく、トルコ語と日本語はすごく似ているので勉強するのは簡単だということだ。フランソワが冗談交じりに「ユウキ、だったらトルコ語勉強すれば?フランス語や韓国語よりも上達が早いかもよ」と言われて、確かにそうかもしれないと思ったが、トルコ語を習ったところで使い途がないので、今のところはその予定はないよ、と答えておいた。

ハマンは毎日、FATBOYでビリヤードばかりやっているというだけあって、非常にうまく僕たちは一度も勝てなかった。それから僕たちはツアーに参加していたオーストラリア人の誘いに乗り、違うバーへと移動した。彼は僕たちがここで飲んでいることを知っていたので、迎えに来てくれたらしい。外に出ると、激しく雪が降っていたが、適度のビールのおかげでそれほど寒さも感じず、僕たちはバーへと向かった。

バーではかなりの人数の人たちが飲んでおり、フランソワと一緒にその輪に加わった。その中の一人が明日気球に乗ると言ったので、僕たちは興味を覚えてその詳細を聞いた。話によると、明日の朝五時半にホテルにワゴンバスが迎えに来て、気球を上げる場所をまで連れて行ってくれるという。料金は一時間気球に乗って100ユーロとのことだ。けっして安くはなかったが、気球なんて乗ったことがなかったので、僕たちはその気球ツアーに参加することにした。そのときにはすでに深夜1時半を過ぎており、翌日五時には起きないといけない僕たちはホテルに帰って休むことにした。

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