Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

シルバーとシルバーの狭間で

シルバーサービス・ウェイターという仕事をご存知だろうか?
たいていの人は知らないと思う。
かくいう自分もその仕事をする当日まで、仕事の内容を知らなかった。

バーテンダーを辞めたあと、しばらくして見つけた仕事がそのシルバーサービス・ウェイターという聞き馴れない仕事だった。
求人広告でほかの仕事より少しだけ割りが良かったので、とりあえず申し込んでみたのだった。

その頃になると、「根拠のない自信」が「ちょっぴり根拠のある自信」というものに変わっており、十分ロンドンでもやっていけるのではないかと思うようになっていた。ときには己を知らないことがプラスに作用する場合もあるのだ。

面接に当たったのは気のいいオーストラリア人のジェイムズという人だった。
とくに仕事の経験や内容に対して聞かれず、世間話のような話をしてあっさり採用された。仕事内容すら定かではなかった僕だったけど、2年ほど経験があるというようなことをまたしても口走った記憶がある。

きっと2という数字が好きなのだろう。
あるいはロンドンでもバーテンダーとして経験を積んだし、日本でも喫茶「ジロー」でウェイターの経験が少しばかりあったので、どうにかなるだろうと思ったのかもしれない。

シルバーサービスということだから、なんとなく「老人介護か?」などと考えていたが、そんなことは全然なく、プライベートパーティーなどでナイフやスプーンを使って肉を取り分けたりする給仕係のことだった。

具体的な仕事内容というと、まずテーブルセッティングから始まり、それから自分の担当のテーブルにオードブルから順番に皿を運ぶのだ。けっこう気の使う仕事だ。たいていは金持ちか会社主催のパーティーが仕事場になる。

そんなことを露知らない僕の仕事初日は緊張の連続だった。
まず二年も経験があると嘘を言ったからには、それなりの仕事ぶりを示さないといけない。
しかし、フォークとスプーンを使って肉や野菜を取り分けたりするのには、多少のスキルがいる。それも決められた時間内に仕事を終えないといけない。

そこで僕の窮地を救ってくれたのは、これまた気のいいオーストラリア人の若者だ。僕よりも二歳ほど年下だったけど、その彼から色々と教わりなんとか危機を乗り越えた。
しかし、彼の名前は忘れてしまった。
プライベートでもけっこう遊んで、クラブやバーを飲み歩いた仲なのに・・・・・
まあ、そんなこともある。

とにかく、その日はなにしろ初日ということもあり、僕は一生懸命に働いた。
それが意外と好評で、それからは僕はVIP担当のシルバーサービス・ウェイターとして、しばらく働くこととなってしまった。

ようはそのパーティーに来ている要人担当ということだ。
おかげでウィンザー城でのパーティー、はたまたメージャー前首相やエリザベス女王などとも対面し、給仕をすることになった。
なんとも嘘のような本当の話だ。
いずれその話は詳しく書こうと思う。