Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

人は状況次第で、いかに変わるかということ。

「急に売れ始めるにはワケがある」というなんとも軽薄な本を購入し、読了した。元々は著者であるマルコム・グラッドウェルの文章がどこかで引用されていたので、それ以来気になり、彼の名前を本屋で見つけて立ち読みしてみたら、そのあまりの面白さに迷わず購入した次第だ。

原書のタイトルは「Tipping point(ティッピング・ポイント)」といい、それを意味するところは「あるアイディアや流行もしくは社会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと」ということだ。

それを様々な現象を例に取って実証検証しており、とても興味深い内容だった。

特に個人的に面白かったのは、「人間はいかに状況に左右されるか」を背景の力として、様々な例を挙げて検証していることだ。人はよく「あの人は本当に利他的で、穏やかないい人」と言うが、その人をある特殊の状況(例えば戦争)に置くと、残酷非道な面が露出し、人を殺すことが生きがいななんとも酷い人間になる。

それはその人が突然豹変したわけではなく、人間は様々な要素で構成されており、状況次第である面が突出する。この本でもあの有名なスタンフォード大学で行われた囚人と看守の実験が取り上げられている。

スタンフォード監獄実験

実験開始からわずか6日間で、看守役の暴力は歯止めが効かなくなり、ついには実験中止に追い込まれるという事態になった。人間は自分自身が思っている以上に日頃から、その置かれている状況に影響されており、あなたが自分自身の個性だと思っているものも実はその状況下によって作られたものかもしれないのだ。

例えば学校のような未成熟な人間が集まっている集団のなかでは、人々の行動はその集団によって取り決められたルールに支配されやすい。イジメなどの行為も率先してやっているのは、せいぜい1人か2人だが、そのカリスマ的影響力によってほかの人間も参加せざるを得ない。

会社などでも「あの人はダメな人」と一度貼られたレッテルは剥がせにくく、貼られた人間もそれを助長する行動を無意識に行う場合が多い。「何がいいか、悪いか」という判断は絶対的なものではなく、あくまでその所属している集団のルールに則って決められているが、当事者同士ではそれはあたかも絶対的なものとして取り扱われている。特に日本はその傾向が強く、そのことについては、子供の頃から恐怖感を覚えていた。だから、それを強制されにくい「自国以外の国」に目が向き、19歳で日本を飛び出したのだと思う。「外国人」という立場は、自国のルールが通用しない、いわば特権階級であることを早い頃から自覚していたのだ。

あともう一つ個人的に気になったのは、新聞報道の弊害だ。自殺者の事件が新聞に掲載されると、その直後には自殺者が増加する傾向にあるという。新聞は本当に「不幸な事件のオンパレード」なので、誰が何のためにこんなものを読みたいのか常々不思議に思っていた。虐殺事件なども報道されるとその模倣犯が必ず現れるので、いっそのこと各都道府県ごとに「幸福新聞」でも発行して、実際にあったハッピーな事柄(〇〇町で三つ子ちゃん誕生!、隣町の山田さんが三億円当選!)だけを載せれば、世のため人のためになるのではと思う。

マーケティングという観点からはあまり役に立たない本だと思うが、人間のことをよく知るためにはとても役に立つ本だ。

追記:「急に売れ始めるにはワケがある」でGoogle検索したら、下記記事を見つけた。

勝間和代さんの本はなぜ急に売れ始めたのか

勝間さんは「どうすればブームを作れるのか、私のバイブルです」と言っているらしいが、この本を読んで実践に役立てるのはあなたのような人くらいです。