ようやく日本に着いた。
ブエノスアイレスから35時間ほどかかったのだが、機内ではずっと映画を見ていた。10本以上は見たのではないだろうか?
そのなかでも最も印象深い映画だったのがウィル・フェレル主演の「Everything Must Go」という映画だ。(ちなみに「Everything must go」は引越しするときに行うガレージセールや倒産セールのときの売り文句、日本語で言うと「持っていけ、泥棒!」という意味です)
ストーリーを一言で要約すると、「アル中の男が突然失業し、その日に奥さんにも愛想をつかされ、家の前に荷物を放り出され、仕方なくその前に座り、失意のどん底にいながらも人生を考えなおす」というものだ。
(詳しくはこちらのHPに紹介されています)
村上春樹が愛してやまないレイモンド・カーヴァーの原作を映画化した本作は、レイモンド・カーヴァー原作の多くの映画がそうであるように、映画が小説を上回っている。それだけ、彼の小説は映像的だと言えるのかもしれない。
レイモンド・カーヴァーの小説は何冊か読んだがどうしても好きになれず、たまたま見た巨匠、故ロバート・アルトマンの「ショート・カッツ」を見て、改めて彼の小説を読み返したら、とても好きになった。
人生のペーソスが面白おかしく描かれ、それが映画で見ると、もっとビビットに伝わってくる。特に本作のウィル・フェレルは、失意のどん底にいて、ビールを飲んで自暴自棄になっているにも関わらず、どこか笑えてしまうユーモアをうまく表現している。
人生からユーモアを取ったら、何も残らない。
常々、そう思う。
くだらない人間ほど眉間にしわ寄せながら、くだらない真剣な話しかしないが、人生どう取り繕ったところで、それほど意味はない。だったら、なるべく楽しく、面白おかしく過ごしたほうがい。ただ、そうは言っても、たいていは失敗の連続でそれほどうまくいくわけではない。だったら、それさえも笑ってしまおうではないか・・・・そのような割り切り方がとても心地いい。
日本に帰ってきてまだ一日しか経っていないが、どこか窮屈さを感じてしまう。ブエノスアイレスの自由で鷹揚な空気がもう懐かしい。それほど「頑張る」ことはないのでは?もっと肩の力を抜いて、楽しく生きればいいじゃないか・・・・そんなことをつい思ってしまう。
我々は「頑張る」ことを追求し評価して、著しい経済発展を遂げたが、もう頑張ったところで以前のように評価されず、お金を稼ぐこともだんだんと難しくなってきている。努力することは何よりも大事だが、自分の限られたリソースをいかに有効利用するか、それが最も大事なことだと、まだ多くの人は気付かない。
でも、それでもいいのかしれない、ユーモアさえ失わなければ、人生楽しく過ごすことは可能だ。そんな、言ってしまえば誰にとってもたいして得にならない教訓を、ひっそりと心にしみる感じで教えてくれるいい映画だ。