クラウドソーシングを使い始めてから、約2年になる。
クラウドソーシング(英語: en:crowdsourcing)は、不特定多数の人の寄与を募り、必要とするサービス、アイデア、またはコンテンツを取得するプロセスである。
上記の定義に、本来ならば「世界中から」を付けて、「世界中から不特定多数の人の寄与を募り、必要とするサービス、アイデア、またはコンテンツを取得するプロセスである。」とするのが正しい。
自分自身がおもに使っているサイトは「Elance(イーランス)」「Odesk(オーデスク)」だ。
特にイーランスに至っては、ウェブサイトの制作、サイトのデザイン、英文契約書の作成、マーケティングなど多岐に渡り今まで使い倒してきた。雇用した人たちも、ボリビア人、モロッコ人、インド人、パキスタン人、ポルトガル人、スペイン人、アメリカ人、それにアルゼンチン人と多くの人たちと仕事をしてきた。その経験からメリットとデメリットを述べてみたい。
メリット:
1.コスト
世界中に仕事が発注出来るので、発注先を日本人のみと対象とした場合よりも価格は下がる。サイト制作を例にすると、日本の会社に依頼するよりも、大体5分の1から10分の1まで価格を下げることは可能だ。
この点が、基本的に日本人のみを対象としたクラウドソーシングサービスである「クラウドワークス」や「ランサーズ」を使った場合に較べての最大のメリットだろう。
2.身近な他人よりも赤の他人の雇用
今まで「誰々さんの紹介」で仕事を発注したり、また個人のツテで仕事を発注するケースが多かったと思う。だが、この場合、仕事自体がうまくいっている場合はいいが、なんらかの問題が起きた場合や、他社よりも明らかにコスト高な場合でもその関係を非常に切りにくい。
クラウドソーシングを使った場合、仕事関係はじつにあっさりとしている。 当然、世界各国に発注先が散らばっているので、彼らと会うことはない。また直接話すよりも、メールあるいはスカイプチャットでのやりとりが基本となる。
よって、純粋に仕事だけの関係となり、その仕事自体がうまくいかなければ、あっさりと関係を解消出来る。
3.評価が公正
これもクラウドソーシングを使う最大のメリットだ。彼らが今までこなしてきた仕事の評価が一目瞭然なので、仕事を発注するまえに「彼らがどのような人物か」ということがある程度つかめる。
それにサイトで評価されることにより、それがリスクヘッジとなり、仕事を発注された側が、その仕事を途中で放り出したり、いいかげんな仕事をするリスクを減らしている。サイトで悪い評価をされたら、もう仕事がこなくなるので、彼らも必死だ。よって、身近な他人を雇うよりも、リスクは低くなる。 (ただ、なかにはいいかげんな人間もいるので、気を付けたい。今までで最悪の仕事をしたのは、意外にも日本人エンジニアだった)
デメリット:
1.英語
基本となる言語は英語だ。イーランスなどは日本語入力に対応すらしていないので、日本語で入力すると文字化けをする。特にサイト制作などは、より具体的な注文が大事になってくるので、日本的な曖昧な表現は許されない。
日々のやりとりが必要な開発やデザインの仕事に関しては、「息をするように英文を入力する」能力が求められる。いちいち日本語で考えて、英訳する必要があるならば、かなりの労力を強いられることを覚悟しないといけない。
2.時差
この問題は大きい。 どこの国いても一日の大半をネットに繋げている必要がある。会社が決める規定の労働時間外を働く覚悟は必要だ。また祝日の問題も大きい。特にインドなどはやたらと祝日が多いので、注意したい。
夜中や早朝でも対応しないといけない場合もある。人によってはかなりのプレッシャーになるかもしれない。
3.納期
日本人ほど納期を生真面目に守る人種は世界中探してもいない。よって、日本人以外と仕事する場合、ある程度の納期の遅れを覚悟しないといけない。よく彼らは「ASAP(as soon as possibleの略)」と言って「至急対応する」と言うが、実際に至急対応してもらえるのは稀だ。
時間に対する感覚がそもそも日本人と違うことを覚悟しないといけない。
<総評>
結局、この2年のあいだ毎日のようにクラウドソーシングを使ってきて感じるのは、言い方は悪いが、「労働力の使い捨て」が出来るということだ。
必要な仕事が発生した場合に適材適所に人材を配置出来る。そして、その仕事がなくなれば、彼らとの雇用関係は解消される。そこに大してリスクは存在しない。仕事がうまくいかなければ、早々と仕事を解消することが可能だからだ。 (支払いは常に仕事が完了した時点で発生するので、「取られ損」というリスクもない)
そして、クラウドソーシングを使えば使うほど思うのは、けっして労働者にはなりたくないということだ。グローバリゼーションによって、労働の対価は世界で平均化される。ということは、日本のような先進諸国に住んでいる労働者は総体的に不利になる。
同じ100ドルでも日本の100ドルよりも、バングラデシュの100ドル、ボリビアの100ドルのほうが圧倒的に価値が高くなり、より優秀な人材をそれらの地で雇うことが可能になるからだ。 (これはきっと今まで30件以上発注したなかで、最も出来が悪かったのが日本人だったということに密接に関係している)
これから先進諸国に住むフリーのデザイナーやエンジニアなどの労働者は、発展途上国に住んで生活コストを下げて、彼らに対抗するしかないのかもしれない。あるいは圧倒的な付加価値を自分に付けて、価格以上のものを打ち出し、自分自身をブランド化するしかないのではと思う。
世知辛い世の中になったことは確かだが、発展途上国の人たちにとっては大きなチャンスであり、先進諸国の人たちにとっては、安くて優秀な労働者を雇い世界へと打って出るチャンスでもある。なぜなら、個人でも多国籍企業を経営することが可能になったわけだから。
発注する側もされる側も今まで以上に「個人の能力」というものが求められ、その競争は今後もより熾烈になってくることだけは確かだ。結局のところ、人は自分の能力以上の仕事は受けることも発注することも出来ないのだから。