Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

【書評】チェ・ゲバラ伝

かれは、困難な任務が宙にういているさい、命令を待たずに買って出るというタイプの、有能かつ勇敢な指揮官として際立ったのである。 これがかれの基本的な性格のひとつであった。 もっとも危険な任務に対して、喜んで即座に志願するのである。当然のことながら、これは敬愛の念をおこさせた。それはわれわれと共に戦っていた同志に対する並の敬愛を倍も上回るものといえた。かれはこの国に生まれたのではなかったのだ。 かれは深遠な思想の人であり、大陸の他の場所での闘争にも夢をかきたてられる人であり、さらには、あまりにも愛他的であり、あまりにも無私であり、つねに至難のことをやりとげるために喜んで命をかける人であった。

チェ・ゲバラはアルゼンチン人である。 2年もブエノスアイレスに住んだ自分からすると、上記の彼に対する描写は常軌を逸しているものだ。

チェ・ゲバラ

特に「あまりにも愛他的であり、あまりにも無私であり、つねに至難のことをやりとげるために喜んで命をかける人であった。」という箇所に非常に感銘を受けた。

財政破綻した国から:ブエノスアイレスの日曜日

アルゼンチンは副大統領自ら貨幣の原版を持ちだして、不正に紙幣を刷りまくって利益を得るというウルトラCを繰り出す国である。さらに現大統領は自らの不正を糾弾しようとした検事を殺した嫌疑をかけられている。

「大統領の密約」を追及、検察官の遺体見つかる アルゼンチン

その国民性は「無私」とは程遠く、どちらかというと「自分のことしか考えない」のがアルゼンチン人気質だ。中南米、南米合わせて最も嫌われている人種、それがアルゼンチン人なのだ。

だが、やはり偉人はその時代性や国民性を超越するのだなと思った。

またチェ・ゲバラというと、「共産主義者」というイメージがあるが、彼はただただ「不正に虐げられた人々を救う」ことを生涯のテーマにしており、そのために共産主義を手段として利用しただけだ。この本にも語られるが、彼は政治的な人間ではなく、どこまでもロマンティストだったのだ。

アルゼンチンに2年も住んでいながらチェ・ゲバラのことは全然知らなかったし、アルゼンチン人とのあいだでも話題に上がることはなかった。自分の理想を追うために革命後のキューバでの安定した地位を捨て、ボリビアでの革命を夢見て、現地であっさりと殺されてしまうチェ・ゲバラ

ジョン・レノンカート・コバーンのように伝説化されるヒーローは若くして死ななければならないのかもしれないが、チェ・ゲバラの死に関して言うと、「残念感」が伴うのも確かだ。キューバ革命が成立し得たのは、もう一人の革命の天才であるフィデル・カステロという優れた政治センスを持つ人物が存在したからでもある。彼ぬきではいかに天才的なゲリラ戦術家であるチェ・ゲバラでも、ボリビアでは革命を成功させることは出来なかった。

それでも、いつまでも自分の理想の実現のために命の危険を顧みずに、死地へと赴いたのは尊敬に値し、そんな彼の生き方に共感して一緒にボリビアへと行ったキューバ人にも感銘した。

ラテン生活4年になるが、自分が知らないラテン世界もまだまだ存在するのだなと強く思った本だ。