Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

夏の記憶はまとわりつく。
湿気を含む空気のせいだろうか?冬の記憶よりも、濃密な感じがする。

あの夏の湿気もひどかった。
父親が単身赴任している京都でまる一ヶ月過ごすことになった。
高校最後の夏休みなのに、なぜか一人きりになる空間が欲しくなった。
その夏は父親以外の人間とあった記憶がない。ただひたすら読書にふけり、京都の街を散策した。夜になると父親が帰宅するので、毎晩取りとめのない話をして晩酌に付き合った。
あんなに父親と長い時間一緒に過ごしたことはそれまでなかったはずだ。

だらだらと過ごすのはもったいないので、自分なりに計画的に時間を過ごすことにした。時間はたっぷりあったので、西洋哲学やら心理学の本を片っ端から読んだ。「記憶術」という6000円もする本を買ったことをよく覚えている。

正直な話、そんなことを体系的に勉強して後々に役立ったことがあるかというと、特にない。ジョルダーノ・ブルーノとかルネッサンスどうこうという話を友達と話す機会などないし、ドストエフスキーやらトルストイに熱く語ったら、きっと頭がおかしいと思われるのがオチだ。ちなみに僕は「罪と罰」の主人公、ラスコーニコフのアパートをロシアにいるとき見に行った。もちろん、架空の人物なので実際そこに住んでいたわけではない。きっとそのモデルとなったアパートということなんだと思う。

その夏はそんなどうでもいい知識を山ほど詰め込み、頭のなかは爆発寸前だった。
それで気晴らしにテレビを見た。普段はほとんどテレビなんて見ることはなかったのに、その夜はたまたまテレビをつけてみた。

とても印象的な映像だった。
小学生の女の子と男の子、ひと夏のちょっとした冒険。とくに夜のプールで女の子が泳ぐシーンが目に焼きついた。

そして10年以上経ち、レンタルビデオ屋で何の気もなしに「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を借りた。題名なんてとっくに忘れていたので、似たようなシチュエーションな物語だなとは思ったが、まさか同じ作品とは思わなかった。

なんだか妙に興奮した。
映画は監督次第だと思って見るので、つい有名監督の作品だと期待してしまう。しかし、それが何の前知識もなくたまたまつけたテレビでやっていた作品だったからこそ、あれほど強烈に感動したのだろう。そんな感動を覚えたのは自分だけではないはず。だからこそ観客の支持を得て劇場公開までされたのだと思う。