Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

ワンピースに見る現代の神話

僕の叔父さんはクールGUYだ(死語?)
ニューヨークに10年以上住み、某一流デザイン事務所でクリエイティブ・ディレクターまで上り詰め、日本に帰国してデザイン会社を設立し、社員15名ほど抱えて一流企業の広告を手がけている。

そんな叔父さんにこのあいだ久しぶりに会った。息子のアレックスがスピルバーグなどを輩出しているカルフォニアのどっかの大学に合格したので、お祝いを兼ねて久しぶりに自宅に招待をされて夕食をご馳走になった。

その夕食のなかで、なぜかワンピースの話しになり、一冊も読んでいなかった僕はいまいち話についていけなかった。そこで意を決して全巻読破することにした。
(ちなみに18歳の頃、叔父さんにピーター・グリナウェイの「数に溺れて」と、ケン・ラッセルの「マーラー」を勧められて見た記憶がある・・・・・それがよもやワンピースになるとは時代は変わる)

ワンピースは神話的要素が満載だ。僕がリアルタイムに読んでいたドラゴンボールにもその要素が散見されるが、ワンピースにはそれが顕著である。

1. ワンピースという秘宝を求めて、小さな村から冒険に出る。

2. 道中に仲間を見つけていく。

3. 強敵がどんどん現れ、主人公たちもそれに伴って強くなる。

4. 冒険が進むつれて、その世界も広がりを見せて、困難も増える。

物語的には桃太郎とほとんど変りない。
ただ驚くべきことは、1巻から57巻まで現在刊行されているなか、1巻からほとんど話が進んでいないことだ。ワンピースという秘宝がそもそもなんなのかも未だわからず、一体いつになったらそれが手に入るのかすら分かっていない。

これがドラゴンボールだと話はもっと明瞭だ。

1. ドラゴンボールを求めて、冒険に出る。

2. 道中に仲間を見つけていく。

3. ドラゴンボールが1個づつ見つかっていく。

4. 強敵がどんどん現れる。

5. 修行をして強くなる。

6. 強敵に破れて死ぬこともあるが、生き返る。

7. 冒険が進むつれて、その世界も広がりを見せて、困難も増える。

物語のマイルストーン(この場合はドラゴンボールの数)が示され、強敵が現れたらそれに対抗するための方法(亀仙人や界王様による修行)が示され、話もちょっとづづ進んでいく。息子なども生まれて、時間の流れも明確に意識されている。

ふたつを比べて顕著な違いは死と努力の概念がワンピースには欠如している点だ。ワンピースでも端役は何人か死んでいくが、主人公たちは決して死なない。これがドラゴンボールだと次々と死んでいく。

ワンピースの主要キャラクターたちはたいした修行もせずに次々と新しい必殺技を編み出していき、強敵を打ち破っていく。ドラゴンボールでは、40kgもする重い甲羅を身につけて死ぬような修行をして、かめはめ波などの必殺技を身につけていく。

努力なし、というのが非常に現代的と言える。アナログ時代では、努力なしには何も打ち立てることはできなかったが、デジタル時代はいかに有用なツールを効果的に使用することかに物事の成功の是非がかかっている。
ドラゴンボールのブルマ的な役どころであるナミが強力なツールを手に入れて、立派な戦闘員になっていることがそれを明確に示している)

昔はひとつの目標を掲げてみんな一丸となって、それに向かっていったが、現代ではそれは通用せず、個々の目的(世界地図を描くこと、立派な海の戦士になること、世界一の剣豪となること)が最も重要であり、それを成就するために一番効率的な方法(ルフィと旅すること)を示さないとチームとして機能しない。

次の神話となるような漫画はどのような要素があるのか、今からとても楽しみだが、その漫画にも「血のにじむよう修行」という要素は欠如していることに間違いない。