”Don't worry, nobody understands you."
(心配いらない、誰も君のことを理解することは出来ないから)
20代の頃と変わらないシャイで内気なスティーブンにそう言った。
彼は人と知り合うのが苦手で、極端に友人が少ないらしい。かって作家志望だった彼に、ブログでも書いてみれば薦めたのだが、見ず知らずの人と知り合うのは怖いと言ったので、彼にそう言ったのだった。
自分自身のことを分かってくれそうな友人たちとのみに付き合いを限る彼の気持ちは分かるが、親や親友でさえ「なんとなく自分のことを分かってくれる」程度だと思う。別にそれはそれでいいのではと思っている。誰からも理解されないと思っているからこそ、なるべく分かりやすく自分を表現したいと心がける。得てして、たいした人間ではないほど自分を大きく見せたがるものだ。
スティーブンは今は小学校の先生となり、またプライベードでも10ヶ月になる息子がいて、充実した人生を送っているらしい。彼とロンドンで一緒に過ごした頃は、お互い「ザ・青春!」と言ったところで、色々と自分たちの夢について語り合い、意見をぶつけたものだが今ではすっかりおとなしくなった。(スティーブンは会ってすぐに自慢の息子の写真をiPhoneで見せてくれた。古今東西を問わず、親ばかは同じ行動を取る)
シドニーの生活を色々と訊いたが、一番驚いたのはその人件費の高さだ。レストランでウエイターをしても一時間2000円くらいもらえるらしい。さらにその上、チップももらえるので、日本と比べるとあり得ないくらい高い時給になる。彼のような学校の先生でも臨時の先生などをすると、一日3万円くらいになることもあるという。どうりでシドニーの物価は東京よりも高いわけだ。レストランでパスタを食べようと思ったら、2000円くらいしたので躊躇した。たかだかランチのパスタに2000円はどうみても高い。日本では食後のコーヒーはランチに付いてくるが、シドニーはそれもないのでますます高く感じる。
東京の物価が世界一高かったのは、もう過去の話らしい。シドニーでは外食文化は日本ほど発達しておらず、結構リッチな人たちのみ外食するとのことだ。
スティーブンと話しているうちにかなり懐かしさがこみ上げてきた。友人はどんなに会わなくても、友人のままなのだなと思った。正直、人間的な欠陥が多いスティーブンだったが、友人だから許せてしまう。どこか憎めないのが彼の美徳だ。
(ロンドンに住んでいた頃、僕たちは貧乏真っ盛りだったが、彼の両親はものずごく金持ちだったので、困ったときは彼は親のアメリカン・エクスプレスカードを使っていた。同じ貧乏でも根本的に違う貧乏だ)
彼は今週の金曜日は特に用事がないということなので、朝から街を案内してもらうことにした。ロードバイクを二台持っているということなので、それで色々と回ろうということになった。そして、今日の夜はGabriel夫妻から展覧会のオープンニングパーティーに招待されている。なんのプランもなかったシドニー滞在だが、意外と忙しく充実している。