Keep My Word

旅とタンゴをこよなく愛する。カラダナオル創業者。

A BAD DAY IN INDIA

それは前夜から始まった。

デリー発バラナシ発の飛行機は朝の11時発だ。
僕たちがいたアグラからデリーは電車で2時間半かかる。

デリー市内から空港までタクシーで40分かかるが、余裕を見て8時にはデリーに着いていたい。それなら1時間かかったとしても、出発まで2時間ある。

しかし、8時着の電車が満席で7時過ぎ着の電車しかなかった。
朝の4時前には起きないと電車に間に合わなかったが、仕方がない。

タージマハールの前に位置するホテルに宿泊していたので駅までは、リクシャで20分ほどかかる。

そんな朝早い時間にリクシャがいると思えなかったので、近くにいるリクシャに朝の4時に来てもらうように手配する必要があった。

降りしきる雨のなか待っているリクシャは1台しかなく、仕方なくその男に朝の4時に来てもらうよう頼んだ。

翌朝、起きると豪雨だった。
いやな予感がした。
そしてその予感は見事に的中する。
降りしきる雨のなか手配したリクシャの男を捜しても、いやしない。彼には通常の三倍ぐらいの値段を払う予定だったのに、見事に逃げられた。

なんとしてでもその日にバラナシに行きたかった。
雨は小雨になったり激しいスコールのようになったり、それを間断なく繰り返した。

あたりは真っ暗だが、少し歩けば店がいくつかある。
そこまで行ってリクシャを探すことにした。
せめて雨だけは止んで欲しかったが、その思いとは裏腹に段々と激しくなった。
重い荷物を背負いながら、早足で歩いた。

店で雨宿りをしながら、リクシャが通り過ぎるのを待つ。
待てども暮らせども何も通り過ぎやしないので、もう一度約束したリクシャの男が来ていないかチェックしに見に行ってみた。

そのときには豪雨はピークに達しており、全身ずぶ濡れだ。
そんな思いをして見に行ったが、リクシャどころか人っ子ひとりいやしなかった。
また来た道を引き返す。

戻る道すがら、リクシャが通りかかり、救われた。
救いとはいうのは、突然思いもかけないところで訪れる。

その救いの神には奮発してチップを払い、やっとの思いで電車の乗ることができた。あとはデリーまで2時間半の道のりをうつらうつら過ごせばいいだけだと、たかをくくっていた。

India

それは大きな間違いだった。
インドの電車は遅れる。
そんなことは分かっていたが、それまでの道のりは12時間もかかる夜行列車に乗っても、20分ほどしか遅れなかった。
だから2時間半の旅程でも、遅れても20分程度だろうと思っていたのだった。

結局デリーに着いたのは、9時だった。
ほぼ2時間近く遅れたことになる。
2時間半の旅程が4時間半かかったのだった。
インドで物事は比例しない。
常にイレギュラーだ。

慌ててタクシーに乗り込むが、乗り込んだタクシーは出発直後にエンストしてしまった。
ツイていないときは、とことんツイていない。

新しい車に乗り換えてようやく出発することができた。
これで一安心だ。
今度こそ、大丈夫だと自分自身に言い聞かせる。

しかし空港まであと少しというところで、今度は大渋滞に巻き込まれてしまった。
車はまったく動かない。

やっと動いたと思っても、その列の先頭が見えない。
なかにはしびれを切らして歩き出すインド人もいる。
時計の針だけは正確なビートを刻み、出発までそれほど余裕がなくなってきた。

そろそろ歩ける距離ではないかと思い、思案を巡らせる。

運転手にあとどれくらいか聞いてみても「あと3キロだ」という。
渋滞にはまり込む30分ほど前には「5キロ」といっていたから、彼の距離感覚になんらかの不具合があるのは明らかだ。

吉報は寝て待ての言葉どおり、ひたすら渋滞が途切れるのを待った。インドでもどこでも、物事に必ず終わりが訪れる。

やっと抜けた。
渋滞を抜け出した頃には、時計の針は予断の許さない10時半という数字を指していた。
出発まで30分。
そこから空港は目と鼻の先だったので、すぐに着いて慌ててチェックインを済ます。

これで万事めでたし。
それにしても長い旅路だった。
こんなこともあるのだと、つくづくインドの雄大さ、スケールの大きさを感じた。
朝4時からの出来事が頭のなかをぐるぐる回り、安堵感よりも疲労感に襲われる。

そんな思いを抱きながら、飛行機は無事バラナシへと飛び立った。出発するはずの時間から、1時間半ほど遅れて・・・・